『桜色の手紙』— 新しい季節へ(大学〜社会人編)【AI】

小説・創作

大学進学を機に家を離れる美桜。新しい環境で出会う困難と喜び、恋愛、夢への迷い。そして遠くから支える父。新たな季節を迎える親子の物語。

第一章 ― 旅立ちの朝

高校の卒業式から数ヶ月が過ぎ、引越しのダンボールが部屋を占領する頃になっても、家の中には昔と変わらず笑い声と皿のぶつかる音があった。美桜は保育士を目指して遠方の専門学校へ進学することになり、父はいつものように不器用な三つ編みを最後に結い上げた。

「行ってくるね、パパ」

「行ってらっしゃい。帰ってきたら、お弁当の味見頼むよ」

二人とも冗談めかして言ったが、どちらの声も少し震えていた。荷物を車に積み込む父の背中を見て、美桜はふと不思議な気持ちになった。彼女にとって“家”はいつもそこにあって、でもその“そこ”が少しだけ遠ざかる瞬間が訪れたのだ。

引越し先の下宿は、想像以上に小さくて、初日は落ち着かない音が家中に響いた。洗濯機の使い方、ガスレンジの火の付け方、近所のルール――全部が学びだった。電話では毎晩のように父と連絡を取り合ったが、その通話の最後にいつも父がつぶやく言葉があった。

「ご飯、ちゃんと食べてるか?」

それを聞くと美桜は不思議と安心した。遠くにいても、父は父であり続けるのだ。

第二章 ― 新しい友達と、初めての壁

学校生活は最初から順風満帆ではなかった。保育の実習は想像以上に体力を使い、他の学生たちとの競争心や価値観の違いがときに美桜を追い詰めた。

「本当に私、向いてるのかな……」

ある夜、彼女は父に弱音を吐いた。父はいつものようにぎこちない冗談で笑わせようとしたが、真剣な返事が続いた。

「向いてるかどうかは、やってみるまで分からない。だけどな、美桜、お前の笑顔は小さな子どもを安心させる。誰より向いてる気がする」

その言葉に勇気づけられ、彼女はもう一度実習に臨んだ。小さな手を繋ぎに来る子ども、初めて絵本を読み聞かせて喜ぶ顔――そんな瞬間が、彼女の中で確かな手応えを育てていった。

同時に、恋もやってきた。同期の一人、真面目で少しシャイな青年と仲良くなり、放課後の図書室で勉強を教え合う時間が増えた。けれどそれは順調な恋だけではなかった。進路や価値観の違い、将来への不安が二人の距離に影を落とすこともあった。

第三章 ― 父の変化

遠距離に慣れてきた頃、父から届く手紙やメールの文面が少しずつ変わってきた。以前は三行で終わる連絡がほとんどだったが、ある日長文が送られてきた。

「美桜へ。今日、学校で話してたら、近所の小学生が“お父さんとお母さん、どっちが好き?”って聞いてきたんだ。俺は即答で“娘が好きだ”って言った。恥ずかしかったけど、言ってしまった。お前の成長を見てると、俺はただ誇らしいよ。」

そのメールを読みながら、美桜は思わず笑ってしまった。父が言葉を選んで自分の気持ちを伝えようとしているのを感じたからだ。父は少しずつ、自分の中の“父親”という役割を言葉にすることを学んでいた。

ある冬、父が体調を崩して入院した。軽い手術で済んだが、病院での静かな時間は父と美桜の関係を少し緊密にした。病室で二人きりになると、父は幼い頃の失敗話や、妻との些細な思い出を淡々と語り始めた。

「お前が小さい頃、ママが好きだった青いカップ使ってお茶をこぼしたんだ。怒られるかと思ったら、ママは笑って“お父さん、まあまあ”って。それがありがたかったんだ」

そんな話を聞いているうちに、美桜は気づいた。父の不器用さは決して“器用さの欠如”ではなく、常に誰かを想う誠実さの表れだったのだ。

第四章 ― つまずき、そして選択

進学から二年目、実習先で起きた出来事が美桜を大きく揺さぶった。彼女が担当したクラスで、家庭の事情から情緒不安定な子が問題行動を起こすようになり、指導教官からは厳しい評価が下された。

「あなたは甘い。プロとして見られていない」

その言葉に、美桜は自信を喪失した。自宅の電話で無言になってしまった夜、父はしばらく黙って聞いてから言った。

「プロになれって言うのは簡単だ。でもその前に必要なのは“人を見る目”と“続ける力”だ。お前は今、それを身につけようとしてるんだ」

父の言葉は押し付けがましくなく、しかし力強かった。彼女はゆっくりと立ち上がり、再び現場に向かった。時間をかけて子どもの心に寄り添い、保護者や先生と連携を取りながら状況を改善していった。

その経験は彼女を変えた。完璧でなくても、向き合い続けることの重要さを学んだのだ。

第五章 ― 卒業、そして新しい仕事

大学(専門学校)卒業の日、父はいつものように不器用な服装で式場にいた。だがその目は誇らしさで満ちていた。式後の写真には、ぎこちない三つ編みと少し古びたスーツが写っている。美桜はカメラを見て笑った。

「パパ、写真は友達に見せないでよ」

「見せないならここで全部剥ぎ取るぞ」

父は冗談めかして言うが、内心は涙ぐんでいた。卒業後の進路は様々あったが、彼女は幼稚園の補助教諭として地元の園に就職することにした。選んだのは、遠くない場所――父がいつでも顔を出せる距離だ。

働き始めると、現場は想像以上に忙しく、責任も増えた。だがそこで出会った仲間や子どもの笑顔が彼女を支えた。父は休日ごとに園に顔を出しては、園児たちにお菓子を配り、保護者と世間話をして帰る。それが少しずつ“地域の父”という立場を作っていった。

第六章 ― 小さな奇跡

ある冬の夕方、幼稚園での行事の後、ひとりの母親が美桜に声をかけた。

「この前、うちの子が夜中に何度も起きて困ってたの。だけど美桜先生が家で教えてくれた『寝る前の絵本の読み方』をしたら、一回で寝てくれたのよ。ありがとう」

その言葉に、美桜は胸がいっぱいになった。父に報告するために帰宅の電車でメッセージを打つ手が震えた。

「パパ、見て見て。誰かの人生がちょっと楽になったよ」

父からの返信はいつもの短い言葉だったが、その中に確かな喜びが滲んでいた。

「それが一番嬉しい報告だ。乾杯しよう。次の休みに好物作るから」

第七章 ― 新しい家族の形

数年が経ち、美桜は立派に保育の仕事を続け、父もまた年齢を重ねていた。ある秋、彼女は自分の小さなアパートに赤ん坊を連れてくる夢を見た。夢と現実の間で揺れる中、実際に彼女のもとに新しい命がやってくる日が来るとは、まだ誰も知らなかった。

現実は静かに進み、ある日彼女はひとつの選択をする。自分の時間を仕事と育児で埋めること、父の元へもっと頻繁に顔を出すこと。そして父も少しずつ身体が不自由になってきたが、二人の絆は揺らがなかった。

父は孫の誕生を知ると、ぎこちなくも嬉しそうに母子を抱きしめた。三つ編みはもう必要ないが、父が孫の前で見せる笑い顔は昔と変わらなかった。

終章 ― 桜色の未来

桜の季節が再び巡り、家族は小さな公園で再会した。父はベンチに腰かけ、孫は父の膝の上で無邪気に笑う。美桜は少し遠くからその光景を眺めた。苦労も、涙も、笑いも、すべてが積み重なって今がある。

「パパ、ありがとう」

「お前の方こそ、よくやった」

二人の会話は短く、それでいて十分だった。桜吹雪が舞う中、誰もが小さな幸福を胸に抱いていた。

家族とは形ではなく、積み重ねだ――という言葉をどこかで聞いたことがあるが、彼女たちはそれを身をもって証明していた。桜が散るたび、新しい季節が来るたび、彼らはまた一歩を踏み出すだろう。

そしてそれは、きっと小さな手が大きな世界を開く物語の続きでもある。

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