カーリング物語 第10話【AI】

小説・創作

汗で氷が霞むほど――スイープ強化の日

リンクに入った瞬間、佐伯さんがすでにブラシを構えて待っていた。

「今日から本格的にスイープ強化いくよ。覚悟してきた?」

その声には、いつもの柔らかさがほとんどない。 代わりにあるのは――本気の指導者の目だった。

■ スイープの基礎は“押す”ではない

「スイープはね、腕でこするんじゃない。 体重を落とし込んで、“ブラシに力を伝える”んだ」

そう言って佐伯さんは、私の手首を軽く触れた。

「腕の力を抜いて。肩と腰で押し込む感じ。 ブラシは身体の一部だと思って」

言葉は簡単だけど、実際にやるととんでもなく難しい。 体重を前にかけすぎればすぐバランスが崩れるし、 腕に力が入るとブラシ先が跳ねる。

「力むな。リズムを作って」

佐伯さんが横を並んで走り、私のスイープのテンポを合わせてくれる。 何度も、何度も、何度も。

十数分で息が切れ、汗が氷にポタリと落ちた。

■ “氷を作る”感覚が初めて分かった瞬間

休憩もそこそこに、次は実戦形式のスイープ練習。

ストーンがリリースされ、私はそれに合わせて走り出す。 ブラシ先が氷を削るような感覚が伝わってくる。

「そのまま! そのまま押し切って!!」

佐伯さんの声に押され、私は限界まで腕を振った。

すると――

ストーンの軌道が、ほんのわずかに変わった。

たった数センチ。 でも、その“小さな変化”が確かにハウスの奥行きを変えていた。

「……今の、自分で作ったラインですか?」

「そう。今のは悠斗くんが“氷を動かした”ショット」

胸の奥に熱いものが溜まっていく。

昨日まではただ必死にストーンを追うだけだったのに、 今日は“ストーンに働きかけている”感覚があった。

■ 限界の先の一歩

最後のメニューは地獄のような持久スイープ。 リンク端から端まで、全力でブラシを動かし続ける。

腕は焼けるように痛い。 息はもう吸えているのか分からないほど苦しい。

けれど――

それでもやめたいとは思わなかった。

「あと10メートル! いける!!」

佐伯さんの声が背中を押す。

最後の一振りまで、私はブラシを離さなかった。

■ 練習後の一言

練習が終わった頃、私は氷の上に座り込んでいた。 汗が滴り、視界が少し霞んでいる。

佐伯さんは隣にしゃがみ、静かに言った。

「今日のスイープで、チームのストーンは変わるよ。 上手くなったね」

その言葉だけで、疲れが全部どこかへ消えていった。

ゆっくり立ち上がると、氷の反射がいつもより少し輝いて見えた。

――スイーパーとしての道が、ようやく始まった気がした。


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