カーリング物語 第9話【AI】

小説・創作

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“氷を見る目”が変わった日

練習試合から一夜明けた朝。
目覚めて最初に感じたのは、筋肉痛でも疲労でもなく――
**「早くリンクに行きたい」**という衝動だった。

カーリングを始めた頃は、氷に立つたび緊張していたのに。
人はこんなに短期間で変わるものなのかと、自分でも驚く。

その日の午後、チーム練習に向かうと、長谷川さんがすでにリンクに立っていた。
目を細めて氷の表面をじっと見つめている。

「何か、見えるんですか?」

そう声をかけると、長谷川さんは苦笑した。

「見えるというか、“感じる”ってほうが正しいかな。
氷のクセ、速さ、ストーンの伸び方……そういうのは、毎日違うんだよ」

「氷って、毎日変わるんですか?」

「うん。同じように作っても、同じにはならない。
そこを読むのが、カーリングの面白いところだよ」

そう言ってから、長谷川さんは私の足元を指差した。

「今日は氷が“速い”。
昨日よりストーンが伸びるから、強めに押し出すとオーバーしやすい」

「……そんなに違うものなんですね」

「うん。でもね――」

長谷川さんは笑う。

「悠斗くん、もう気づきかけてるよ。昨日のショット、あれは“氷を読めた人”のストーンだったから」

その言葉に、胸が熱くなった。

■ 氷を見るための練習

その日の練習は、いつもとまったく違った。

投げるのではなく、**“氷を観察する練習”**だった。

リンクをゆっくり歩きながら、氷の光の反射、表面のざらつき、ストーン跡の線、スイープ後の変化をひとつずつ見ていく。

「このライン、分かる?」

「細い線がたくさんありますね……」

「これはスイープで削れた跡。
たくさんスイープされた場所ほど、あとでストーンが曲がりにくくなる」

「へえ……!」

次々と新しい情報が目の前に開けていく。
氷はただの床じゃない。
“ゆっくり変化し続ける生き物”みたいだ。

そして、氷を見ているうちに、不思議と心が落ち着いてきた。

「悠斗くん、投げてみようか」

観察をひと通り終えた後、長谷川さんが声をかけた。

「氷の“速さ”を、身体で確かめて」

私は深呼吸し、スライドに入った。
力を抜き、静かにストーンを送り出す。

ストーンは確かに、昨日よりスッと伸びた。
ハウスの前まで、まるで呼吸をしているように滑っていく。

「……伸びる」

思わず口から漏れた。

「だろ? 今日の氷はほら、いい感じに締まっててね」

「分かります……なんか、昨日より軽いというか」

「それそれ。“氷を見る目”が育ち始めてる」

自分が昨日より一歩先へ進んだことが、はっきり分かった。

■ 新しい課題

練習が終わり、片付けの最中に長谷川さんが近づいてきた。

「ねえ悠斗くん、次の目標を決めようか」

「次の目標……?」

「氷を読む力は伸びてきた。次は――」

長谷川さんは、指をひとつ立てた。

「**“ラインを作るスイープ”**だよ」

「ライン……を作る?」

「そう。氷を読むだけじゃなく、
スイープで“氷をコントロールする側”になってほしいんだ」

その言葉に、ぞわっと背筋が震えた。

氷を読むだけでも難しいのに、氷を“変える”なんて。

「できるかな……」

「できるよ。悠斗くん、スイープが上手くなればチームは一段階上に行ける」

そう言ってくれた笑顔は、いつもの優しさとは少し違った。

“本気で期待している”人の顔だった。

■ 小さなメモが未来を変える

家に帰ると、ノートを開き、今日の気づきをまとめた。

・氷は毎日違う
・スイープ跡はラインに影響
・速い氷に対しては力を抜く
・氷を読む→氷を作るへステップアップ

書きながら、心の奥が熱くなる。

昨日のテイクショットで自信をつけたばかりだ。
でも今日の練習は、その成功が“通過点”に過ぎないことを教えてくれた。

カーリングって、本当に果てしない。

けれど――
だからこそ、やめられない。

次は、スイープでラインを作る番だ。

私はノートを閉じ、明日の練習が待ちきれなくなっていた。


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