はじめての“壁”――ミスショットの痛み
スイープ練習の初日を乗り越え、僕は少しだけ自信をつけていた。
もちろん動きはまだぎこちないし、腕は筋肉痛で上がらない。
それでも——「少しはできるようになった気がする」。
そんな淡い期待を胸に、次の練習へ向かった。
しかし、その期待は開始10分で打ち砕かれることになる。
■ 初のポジションチェンジ
「今日はスイープだけじゃなく、ショットもやってみろ」
練習前、佐伯さんがそう言った。
「しょ、ショット!? 僕が投げるんですか?」
「当然だ。カーリングは投げてナンボだ」
淡々とした声の中にも、どこか期待がにじんでいる……ような気がした。
シューズの滑り止めを外し、ハックに足をかける。
氷の冷たさが身体の芯まで伝わってくる。
「狙うのはセンターライン。力は入れすぎるなよ」
「は、はい……」
深呼吸して、ストーンを構えた。
自分でも驚くほど手が震えている。
体重を前に移し、ストーンを押し出す——はずだった。
■ 最低の“初ショット”
「うおっ!?」
バランスを崩し、体勢が潰れた。
ストーンはフラフラと蛇行し、そのままサイドへ逸れていく。
リンクに響く、静かな沈黙。
「……まぁ、初回はこんなもんだ」
佐伯さんの声が小さく聞こえる。
でも他のメンバーの空気は、驚きと戸惑いが混ざっていて、いたたまれない。
「も、もう一回……お願いします」
「やれ。投げろ」
二投目。
慎重になりすぎて、今度は弱すぎた。
センターラインにすら届かない。
「……っくそ」
唇を噛む。
自分でも情けないほど完璧に“下手”だった。
■ 心を折りにくる佐伯さんの一言
三投、四投……どれも満足に投げられなかった。
投げるたびに自信が削られていく。
そのとき、佐伯さんが近づいてきた。
「……お前、センスないぞ」
「え……」
「投げ方が雑すぎる。フォームは崩れてるし、迷いが多い。正直、下手だ」
心臓が、一瞬止まったように感じた。
分かっていた。分かっていたけど、言われると痛い。
スイープでは褒められた分、落差が刺さった。
「……すみません」
「謝るな。上手くなる気があるのかと聞いてる」
「……あります」
「なら、引きずるな」
そう言って佐伯さんは背中を向けた。
淡々とした言葉なのに、不思議と嫌味ではなかった。
ただ、正直で、真っ直ぐなだけだった。
■ それでも前へ
練習の終盤、チームはミニゲーム形式に移行した。
僕はスイーパーに戻され、ショットのチャンスはしばらく回ってこない。
ミスの映像が頭から離れず、スイープにも集中できない。
足は重く、視界もにぶい。
そんなとき——
「おい新人。前見ろ」
佐伯さんの低い声が聞こえた。
顔を上げると、ストーンがまっすぐこちらへ向かってくる。
僕は反射的に走り出し、全力でスイープした。
「そこだ! その強さで押せ!」
「ラスト3メートル! いけ!」
仲間の声が響く。
ストーンが狙いの位置で止まった瞬間、周囲から拍手が上がった。
「ナイススイープ!」
「お前、沈んでる場合じゃねぇだろ」
佐伯さんの声は相変わらず低い。だが、不思議と温かかった。
■ 練習後の空気
帰り支度をしていると、佐伯さんがふと横に立った。
「……投げ方は、次また教える」
「え?」
「今日のは“下手なだけ”だったからな」
「う……」
「だが、下手は治る。“やる気がない”のは治らない」
そして短く付け加えた。
「続けろ。向いてないとは言ってない」
その言葉は、ミスで沈んだ心を静かに支えてくれた。
僕は再び、カーリングが“もっと上手くなりたい”と思えた。

コメント