カーリング物語 第6話【AI】

小説・創作

はじめての“壁”――ミスショットの痛み

 スイープ練習の初日を乗り越え、僕は少しだけ自信をつけていた。
 もちろん動きはまだぎこちないし、腕は筋肉痛で上がらない。
 それでも——「少しはできるようになった気がする」。
 そんな淡い期待を胸に、次の練習へ向かった。

 しかし、その期待は開始10分で打ち砕かれることになる。

■ 初のポジションチェンジ

「今日はスイープだけじゃなく、ショットもやってみろ」
 練習前、佐伯さんがそう言った。

「しょ、ショット!? 僕が投げるんですか?」
「当然だ。カーリングは投げてナンボだ」
 淡々とした声の中にも、どこか期待がにじんでいる……ような気がした。

 シューズの滑り止めを外し、ハックに足をかける。
 氷の冷たさが身体の芯まで伝わってくる。

「狙うのはセンターライン。力は入れすぎるなよ」
「は、はい……」

 深呼吸して、ストーンを構えた。
 自分でも驚くほど手が震えている。

 体重を前に移し、ストーンを押し出す——はずだった。

■ 最低の“初ショット”

「うおっ!?」
 バランスを崩し、体勢が潰れた。
 ストーンはフラフラと蛇行し、そのままサイドへ逸れていく。

 リンクに響く、静かな沈黙。

「……まぁ、初回はこんなもんだ」
 佐伯さんの声が小さく聞こえる。

 でも他のメンバーの空気は、驚きと戸惑いが混ざっていて、いたたまれない。

「も、もう一回……お願いします」
「やれ。投げろ」

 二投目。
 慎重になりすぎて、今度は弱すぎた。
 センターラインにすら届かない。

「……っくそ」
 唇を噛む。
 自分でも情けないほど完璧に“下手”だった。

■ 心を折りにくる佐伯さんの一言

 三投、四投……どれも満足に投げられなかった。
 投げるたびに自信が削られていく。

 そのとき、佐伯さんが近づいてきた。

「……お前、センスないぞ」
「え……」
「投げ方が雑すぎる。フォームは崩れてるし、迷いが多い。正直、下手だ」

 心臓が、一瞬止まったように感じた。

 分かっていた。分かっていたけど、言われると痛い。
 スイープでは褒められた分、落差が刺さった。

「……すみません」
「謝るな。上手くなる気があるのかと聞いてる」
「……あります」
「なら、引きずるな」

 そう言って佐伯さんは背中を向けた。

 淡々とした言葉なのに、不思議と嫌味ではなかった。
 ただ、正直で、真っ直ぐなだけだった。

■ それでも前へ

 練習の終盤、チームはミニゲーム形式に移行した。
 僕はスイーパーに戻され、ショットのチャンスはしばらく回ってこない。

 ミスの映像が頭から離れず、スイープにも集中できない。
 足は重く、視界もにぶい。

 そんなとき——

「おい新人。前見ろ」
 佐伯さんの低い声が聞こえた。

 顔を上げると、ストーンがまっすぐこちらへ向かってくる。
 僕は反射的に走り出し、全力でスイープした。

「そこだ! その強さで押せ!」
「ラスト3メートル! いけ!」
 仲間の声が響く。

 ストーンが狙いの位置で止まった瞬間、周囲から拍手が上がった。

「ナイススイープ!」
「お前、沈んでる場合じゃねぇだろ」

 佐伯さんの声は相変わらず低い。だが、不思議と温かかった。

■ 練習後の空気

 帰り支度をしていると、佐伯さんがふと横に立った。

「……投げ方は、次また教える」
「え?」
「今日のは“下手なだけ”だったからな」
「う……」
「だが、下手は治る。“やる気がない”のは治らない」

 そして短く付け加えた。

「続けろ。向いてないとは言ってない」
 その言葉は、ミスで沈んだ心を静かに支えてくれた。

 僕は再び、カーリングが“もっと上手くなりたい”と思えた。


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