〜スイープの地獄へようこそ〜
カーリングチームに正式加入して数日。
ついに今日、僕は“はじめてのチーム練習”に参加することになった。
リンクに着くと、すでに何人かのメンバーが準備を始めていた。
ストレッチをする人、ブラシの毛並みを整える人、ストーンを丁寧に拭きあげる人。
その光景に、僕の緊張は一気に跳ね上がる。
「来たな新人。今日は覚悟してこいよ」
そう声をかけてきたのは、無表情で有名な精密ショットの使い手・佐伯さん。
悪い人ではないのは分かっているが、どうにも圧がすごい。
「な、なにをやるんですか?」
「決まってるだろ。スイープだ」
佐伯さんは無駄なく、淡々とブラシを差し出してきた。
■ 地獄のスイープ練習、開始
「まず基本姿勢。前傾して、腕じゃなくて体重で押す。動作は上下じゃなくて前後だ」
そう言うと佐伯さんは、氷の上を滑るように移動しながらブラシをこすり始めた。
ザッ、ザッ、ザッ、ザッ——。
氷の表面が乾いた音を立て、薄い霧のように白い粉が舞う。
「やってみろ」
「は、はい!」
僕も姿勢を真似し、ストーンの前へ移動しながらブラシを動かす。
しかし——
「遅い。もっと前」
「姿勢が高い」
「腕に頼りすぎ」
「それじゃストーンのスピードは変わらん」
次々と飛んでくる指摘。
分かっていても、身体がついてこない。
呼吸が苦しくなり、額から汗が落ちる。
■ それでも、失敗の先に見えたもの
何度も、何度も繰り返すうちに——
少しだけ、ブラシの動きに“手応え”を感じる瞬間があった。
「……お。今の悪くない」
「あ、本当ですか!?」
「調子に乗るな。ただ、さっきのはスピードが伸びた」
佐伯さんの評価は相変わらず淡々としているが、内容は確かに褒めている。
それが妙に嬉しい。
■ チームでの初実戦ステップ
「じゃあ実際にやるぞ。俺がストーンを投げる。お前は全力でスイープだ」
そう言いながら、佐伯さんはリンク奥に構える。
ストーンが離れた瞬間——
「右寄り! もっとスピード上げろ!」
佐伯さんの低い声が飛ぶ。
僕は必死にストーンの前へ走り込み、全身でブラシを押しつけた。
腕が震え、脚がもつれそうになる。
「息を切らすな! 最後まで押せ!」
怒鳴るというより、叩きつけるような指導。
だが不思議と、きついのに嫌じゃない。
ストーンがピタリと狙った位置に止まった瞬間、周りから声が上がった。
「ナイススイープ!」
「新人にしてはやるじゃん!」
「腕だけで動かしてないの良かったよ」
僕の胸が熱くなる。
これが“チーム”の空気なのだと、初めて実感した。
■ 練習後のひとこと
練習が終わる頃には、腕が上がらなくなるほど疲れていた。
しかし、佐伯さんはそんな僕を見て言った。
「悪くない。しばらくはスイープだけでいい。基礎を固めろ」
「はい……次も頑張ります!」
「……次は、もっと動け」
最後の一言だけは地味に刺さった。
それでも、氷の上で感じたチームの一体感は、たしかに僕の心を掴んでいた。
下手だけど。遅いけど。苦しいけど。
もっとやってみたい——そう思った。

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