カーリング物語 第5話【AI】

小説・創作

〜スイープの地獄へようこそ〜

 カーリングチームに正式加入して数日。
 ついに今日、僕は“はじめてのチーム練習”に参加することになった。

 リンクに着くと、すでに何人かのメンバーが準備を始めていた。
 ストレッチをする人、ブラシの毛並みを整える人、ストーンを丁寧に拭きあげる人。
 その光景に、僕の緊張は一気に跳ね上がる。

「来たな新人。今日は覚悟してこいよ」
 そう声をかけてきたのは、無表情で有名な精密ショットの使い手・佐伯さん。
 悪い人ではないのは分かっているが、どうにも圧がすごい。

「な、なにをやるんですか?」
「決まってるだろ。スイープだ」
 佐伯さんは無駄なく、淡々とブラシを差し出してきた。

■ 地獄のスイープ練習、開始

「まず基本姿勢。前傾して、腕じゃなくて体重で押す。動作は上下じゃなくて前後だ」
 そう言うと佐伯さんは、氷の上を滑るように移動しながらブラシをこすり始めた。

 ザッ、ザッ、ザッ、ザッ——。
 氷の表面が乾いた音を立て、薄い霧のように白い粉が舞う。

「やってみろ」
「は、はい!」
 僕も姿勢を真似し、ストーンの前へ移動しながらブラシを動かす。

 しかし——

「遅い。もっと前」
「姿勢が高い」
「腕に頼りすぎ」
「それじゃストーンのスピードは変わらん」

 次々と飛んでくる指摘。
 分かっていても、身体がついてこない。
 呼吸が苦しくなり、額から汗が落ちる。

■ それでも、失敗の先に見えたもの

 何度も、何度も繰り返すうちに——
 少しだけ、ブラシの動きに“手応え”を感じる瞬間があった。

「……お。今の悪くない」
「あ、本当ですか!?」
「調子に乗るな。ただ、さっきのはスピードが伸びた」

 佐伯さんの評価は相変わらず淡々としているが、内容は確かに褒めている。
 それが妙に嬉しい。

■ チームでの初実戦ステップ

「じゃあ実際にやるぞ。俺がストーンを投げる。お前は全力でスイープだ」
 そう言いながら、佐伯さんはリンク奥に構える。

 ストーンが離れた瞬間——

「右寄り! もっとスピード上げろ!」
 佐伯さんの低い声が飛ぶ。

 僕は必死にストーンの前へ走り込み、全身でブラシを押しつけた。
 腕が震え、脚がもつれそうになる。

「息を切らすな! 最後まで押せ!」
 怒鳴るというより、叩きつけるような指導。
 だが不思議と、きついのに嫌じゃない。

 ストーンがピタリと狙った位置に止まった瞬間、周りから声が上がった。

「ナイススイープ!」
「新人にしてはやるじゃん!」
「腕だけで動かしてないの良かったよ」

 僕の胸が熱くなる。
 これが“チーム”の空気なのだと、初めて実感した。

■ 練習後のひとこと

 練習が終わる頃には、腕が上がらなくなるほど疲れていた。
 しかし、佐伯さんはそんな僕を見て言った。

「悪くない。しばらくはスイープだけでいい。基礎を固めろ」
「はい……次も頑張ります!」
「……次は、もっと動け」
 最後の一言だけは地味に刺さった。

 それでも、氷の上で感じたチームの一体感は、たしかに僕の心を掴んでいた。
 下手だけど。遅いけど。苦しいけど。
 もっとやってみたい——そう思った。


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