〜新人、初めての挫折〜
翌日。筋肉痛でロボットのような歩き方をしながら、俺は再びリンクに来てしまっていた。
「……なんで来てるんだ俺」
昨日の出来事が、頭から離れなかった。あのストーンの軌道。最後にピタッと止まった感覚。偶然だったはずなのに、胸のどこかが「もう一回」と騒いでいる。
リンクに入ると、昨日の青年──篠森が、すでに氷の上でストレッチをしていた。
「来ると思ってたよ」
「うわっ、なんで分かるんすか」
「君、好奇心が顔に出るタイプだろ」
言い返したいけど、否定できない。
篠森は軽く顎で合図した。
「今日はチームも来てる。紹介する」
「え、チーム!?」
案内された先には、男女混成の四人組がいた。全員が真剣な目をしながらも、どこか柔らかい雰囲気をまとっている。
「紹介する。ここは俺の所属チーム『フォルテ北野』。地方リーグで活動してる」
「フォルテ……なんか強そう」
「強いよ。今年は全国大会に出る」
その言葉に、思わず息を飲んだ。俺なんかが近寄っていい領域じゃない。
「悠斗くん、よろしくね!」
明るい声の女性が手を振る。
「昨日の一投、篠森から聞いたよ」
「え、あれは偶然で……」
「偶然でもいいの。あれは“伸びる目”をしてる人の投げ方だった」
“伸びる目”。初めて聞いた言葉なのに、胸に刺さった。
その直後、篠森がストーンを渡してきた。
「昨日の軌道、再現してみろ」
「いや、無理っすよ!」
「いいから。やってみろ」
投げ方を思い出す。膝が震える。氷は冷たく、昨日より広く感じる。
ストーンを滑らせた瞬間──
ガッガッガッ……!
最悪だ。途中でバランスを崩し、ストーンは途中で大きく曲がり、まったく違う方向へ転がっていってしまった。
「ご、ごめんなさい……!」
チームの空気が一瞬だけ静まり返る。
しかし、篠森は腕を組んだまま言った。
「それでいい」
「よくないでしょ!!」
「初心者が毎回完璧だったら、逆に怖い。むしろ今日の方が自然だ」
チームのメンバーも頷く。
「カーリングは“氷の読み合い”のスポーツだよ。昨日の一投は確かに良かった。でも、あれを続けるには練習が必要」
篠森は、俺の肩に手を置いた。
「木島。もし本気でやる気があるなら、うちで練習してみないか?」
「……俺が?」
「昨日の“目”を見て決めた。あれは嘘じゃない」
返事をしようとした瞬間、店からの連絡がスマホに来た。まさかのシフト追加。今日は夜まで働くらしい。
「すみません……今日だけは無理っす。明日は来れます」
「じゃあ明日。逃げるなよ」
「逃げませんって!」
リンクを出る頃、胸の中の不安も痛みも、全部まとめて熱に変わっていた。
──俺、もしかして、本当にカーリングやりたいのか?
その問いの答えは、明日リンクに立てば、嫌でも分かるだろう。


コメント