第21章：風と共に生きる
黒霧の谷を越えてから、一ヶ月が経った。 風心の村は、青空と笑い声に包まれていた。
畑では子どもたちが走り回り、リナが新しい料理をふるまっている。 ガルドは鍛冶屋として村の武具を修理し、ルナは学校で魔法を教えていた。
村の中央に立つ俺は、風車の音を聞きながら微笑む。 「ここまで来たんだな……。」
村の成長
風の種から育った植物は、周囲の土地を浄化し、豊かな実りをもたらした。 それをきっかけに、近隣の村々との交易も始まり、風心の村は小さな“風の都”へと成長していった。
「あの時の小さな畑が、こんなに広がるなんて……。」 リナが感慨深げに笑う。 「あなたが“仲間を信じる”って教えてくれたからよ。」
俺は照れながら、少し肩をすくめた。 「いや、俺もみんなに教わったんだ。“休むこと”も、“楽しむこと”もな。」
レオの旅立ち
そんなある日、少年レオが村を出る決意を伝えてきた。 「俺……自分の村を作ってみたいんです。 この村みたいに、誰かの居場所になるような場所を。」
ルナが涙ぐみながら抱きしめる。 「立派になったね、レオ……。」 ガルドは笑って背中を叩いた。 「困ったらいつでも帰ってこい。風心の村は、お前の家だ。」
俺は、彼に小さな木の種を手渡した。 「この種は、風の神の祝福を受けた“新しい命”だ。 どこに植えても、そこに風が吹く。」
レオは涙を浮かべながら頷いた。 「ありがとうございます！必ず、風のように自由な村を作ります！」
神の再会
その夜、風が優しく村を包んだ。 空を見上げると、淡い光の中に“アウラ”の姿が浮かぶ。
「加護を継ぐ者よ、人の世は風のように巡り続ける。 お前の選んだ道は、この世界に新しい命を吹き込んだ。」
「俺はただ、みんなと生きたかっただけです。」 アウラは微笑む。 「それが“神の望み”でもある。生きるとは、風のように流れ、繋がることだから。」
光が消えると、風車が静かに回り始めた。 まるで神が微笑んでいるように。
穏やかな朝
翌朝、村の子どもたちが俺の畑に集まってきた。 「先生！今日もお手伝いする！」 「よし、じゃあ新しい野菜の種をまこう！」
笑い声が響く中、リナが朝食を運んでくる。 香ばしいパンの匂いと、あたたかなスープの湯気。 風がそれを優しく撫でていく。
俺は穏やかに微笑んだ。 「……これが俺の、生きたかった毎日だ。」
遠くの丘には、レオの旅立った方角へ向けて小さな風が吹いている。 それはまるで、未来へと続く希望の道しるべだった。
エピローグ：風の声
時は流れ、風心の村は“風の都”と呼ばれるまでに発展した。 旅人たちは語る。 「この村の風は、どんなに疲れた心でも癒してくれる」と。
俺は畑の中で空を見上げ、静かに呟いた。 「ありがとう、俺をこの世界に導いてくれた神様。 ——俺は、やっと“働くことの意味”を見つけたよ。」
風が答えるように吹き抜けた。 その風は、どこまでも穏やかで、あたたかかった。
──完──
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