第10章:加護の対立と、命の種
翌朝、王都の空は重く曇っていた。 王から召集を受け、俺とセリオス卿は同じ議場へと足を運ぶ。 周囲には貴族や神官たちが並び、空気は張りつめていた。
王の前で、セリオス卿が一歩進み出る。 「陛下。この国の飢えを救うためには、“神託の効率化”が必要です。 人の判断ではなく、加護による管理こそが最善の道です。」
静かな声。けれど、その中に確かな威圧があった。 かつての部長と同じだ。合理的で、感情を排除した言葉。
俺も前へ出た。 「効率も大切です。でも、それだけでは人は生きられません。 土に触れ、隣人と笑い合う時間こそが、この世界の“豊かさ”なんです。」
議場がざわめく。 王は両者を見比べ、静かに言った。 「二人の加護が、同じ神から授けられたとは思えぬほどに異なっているな。」
二つの加護
セリオス卿が右手を掲げると、淡い青の光が広がる。 「これは“管理の加護”。秩序と統率をもたらす力だ。」 光が床を走り、模様のような紋章を描いた。
俺もまた、手のひらに意識を集中させた。 緑の光が芽吹くように揺らめき、土の匂いが立ち込める。 「そしてこれが“創生の加護”。生命を育む力です。」
青と緑の光がぶつかり、空気が震えた。 まるで神が試しているようだった——どちらの理が、真に“人を幸せにする”のか。
心の畑
王の判断は出なかった。 「三日後、この国の北の荒野にて、両者の加護を試す実験を行う。」 “荒野を再生させる”という試練が課された。
俺は夜の王都を歩いた。 市場には、食べ物が並んでいるのに、誰も笑っていない。 セリオス卿の言う“効率”の世界が、ここにあった。
小さな花屋の前で、少女がひとり、枯れた花を見つめていた。 「おじさん、この花、もう咲かないの?」 俺はしゃがみ込み、微笑んだ。 「咲くさ。だって“土”はまだ生きてる。」
その瞬間、花の根元に小さな光が灯った。 緑の芽が顔を出し、少女が息をのむ。 ——“命の種”は、心から生まれる。 俺はそれを確信した。
試練の地へ
三日後。 荒野は、風しか吹かない死の大地だった。 セリオス卿は魔導機を並べ、光を降らせた。 瞬く間に、人工的な緑が一面に広がる。
だがそれは、根を持たない“偽りの生命”だった。 時間が経つと、風にさらわれ、消えていく。
俺は地にひざまずき、土に手を差し込んだ。 「焦るな。土は、ちゃんと聞いてる。」 エリアが遠くから祈りの歌を奏で、風が優しく流れた。
やがて、ひとつ、またひとつ—— 芽が、光の中から顔を出した。 誰かの笑顔を思い出すたびに、緑が増えていく。
「……これが、人の力です。誰かを思う心が、命を芽吹かせる。」
王は立ち上がり、静かに宣言した。 「勝者は——“創生の加護”を持つ者、佐藤。」
セリオス卿はしばらく沈黙し、やがて微笑んだ。 「やはり、お前は変わったな。 俺にはまだ、“人の温もり”が理解できないようだ。」
そして、彼は空を見上げた。 「だがそれでも……お前の選んだ道を見届けよう。」
命の種
試練の後、王都の人々が荒野を訪れた。 小さな子どもたちが芽を撫で、農夫たちが涙を流した。
「これが……本当の豊かさか。」 セリオス卿のつぶやきが、風に消えていった。
俺は小さな種を手のひらに握った。 「この命の種が、誰かの未来をつなげるなら——」 新しい朝日が、王都の空を照らした。
次回予告:第11章「風の便りと、村の再生」
王都での試練を終え、再び村へ。 そこに待つのは“新しい仲間”と、“再生の春”。
  
  
  
  
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