プロローグ
秋の風が冷たくなり始めた夕暮れ。
慶次は刑事課に配属されて一週間。新人とは思えないほどの自信に満ちた風貌だが、中身はおっちょこちょいで空回りばかりしていた。
――そんな彼が、初めての殺人事件に挑むことになる。
第一章 不器用な初陣
古びたアパートの一室。
血の匂いが漂い、床には男性の遺体が横たわっていた。
「こ、これが……初めての現場……」
慶次は手袋をつけながら震えた。
隣に立つのは交通安全課の先輩、あきら。落ち着いた瞳とロングヘアがよく似合う警察官だ。
「新人くん、大丈夫？ 顔が真っ青よ」
「だ、大丈夫です！ 刑事ですから！」
慶次は胸を張ったが、足元の血痕に思いきりつまずいた。
「あぶなっ！」
あきらが腕を掴んで支える。
一瞬、二人の顔が近づき、慶次は思わず固まった。
「……しっかりしてよね」
頬をわずかに赤らめながら、あきらはそっと手を放す。
その様子を、交通安全課の同僚・伊山が険しい目で見ていた。
ロン毛を揺らしながら、心の奥でつぶやく。
（慶次……あきらさんに近づくなよ）
第二章 支え合う仲間たち
署に戻ると、刑事課の同僚・恵子が待っていた。
茶髪ミディアムの甘えん坊系女子で、慶次にはよく懐いている。
「けーじ先輩、お疲れさま！ はい、缶コーヒー！」
「ありがとな、恵子」
「もう～、もっと褒めてくれてもいいのに！」
慶次が苦笑すると、あきらが小さく咳払いする。
「……仕事中よ。気を抜かないこと」
二人のやりとりに、あきらは少しだけむっとしていた。
（なんで私が気になるのよ……別に、彼のことなんか……）
第三章 迷走
捜査は行き詰まった。
アリバイが固そうな容疑者ばかりで、証拠も乏しい。
「はぁ……俺、刑事に向いてないのかもな」
夜の署で落ち込む慶次。
そこへ恵子が顔を出す。
「先輩、落ち込まないでください！ 私、先輩のこと尊敬してるんですから！」
「……ほんとに？」
「ほんとですよっ！」
恵子の無邪気な笑顔に癒されながらも、慶次の心には別の顔が浮かんでいた。
――あきらさん。
第四章 突破口と嫉妬
翌日。
「慶次、これを見て」
あきらが差し出した防犯カメラの映像。
リュックを背負った人物が現場近くを歩いていた。
「この中に凶器が……！」
慶次の目が輝く。
「さすがですね、あきらさん！」
思わず肩に手を置くと、あきらの顔が赤くなる。
「ちょ、近い……」
「えっ、あ、ごめんなさい！」
その一部始終を見ていた伊山の拳が小さく震えた。
（……。俺はあきらの隣には立てないのか？）
第五章 真相と告白未遂
犯人は被害者の友人で、金銭トラブルが原因だった。
リュックからは血のついたハンマーが発見され、事件は無事解決。
夜、署の屋上。
星空を見上げながら、慶次とあきらが並んでいた。
「……ありがとう、あきらさん。俺、一人じゃ絶対無理だった」
「慶次くんの粘りがあったからよ」
風が髪を揺らし、二人の距離が自然と縮まる。
「俺、あきらさんのこと――」
慶次が言いかけたとき、ドアが開いた。
「けーじ先輩！ コンビニスイーツ買ってきました！」
恵子が元気よく駆け寄ってくる。
慶次は言葉を飲み込み、あきらは小さくため息をついた。
伊山は廊下の陰で、その光景を黙って見つめていた。
エピローグ
夜風に吹かれながら、慶次は拳を握る。
まだ不器用で、恋も仕事も空回りばかりだ。
けれど――仲間とともに歩んでいけば、きっと刑事としても、一人の男としても成長できる。
星空の下で、慶次の初陣は静かに幕を下ろした。
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