短編小説:コーヒーが冷める前に、課長は嘘をつく(第2話)【AI】

小説・創作

順調という言葉の定義

翌朝、会社の自動ドアが開いた瞬間、嫌な予感がした。

理由ははっきりしている。
今日は、課長に「案件が増えた」と報告しなければならない日だ。

昨日の成功は、確かに成功だった。
だが成功とは、たいてい次の仕事を連れてくる。

デスクに着くと、彩香がすでにいた。
なぜかニヤニヤしている。

「顔がもう“順調じゃない人”ですよ」

「そんな顔、ある?」



「あります。昨日の夕方と同じ」

僕は黙ってマグカップを置いた。
あの「誠実」シールは、相変わらずこちらを見つめてくる。

九時ちょうど。
課長が出社してきた。

「おはようございます」

「おう。で?」

まだ何も言っていないのに、課長はそう言った。

「……例の件ですが」

僕は腹をくくった。

「先方から、継続案件のご相談をいただきました」

課長は少しだけ目を細めた。

「ほう」

「で?」

「……正直に言います」

佐伯先輩が、キーボードを打つ手を止めた。
彩香が、なぜか小さく拍手した。



「スケジュールは、まあまあ厳しいです」

「まあまあ、な」

「昨日よりはマシです」

「比較対象が地獄だな」

その時、課長が僕のデスクの横に立った。

「聞くけどな」

「お前にとって、“順調”って何だ?」

僕は答えに詰まった。

納期を守れること?
ミスがないこと?
怒られないこと?

少し考えて、こう言った。

「……誰か一人で抱え込まなくていい状態、です」

課長は、ふっと笑った。



「悪くない答えだ」

そして、またあの一言。

「よし、全員でやるぞ」

「またですか」

「まただ」

部署の空気が、少しだけ軽くなる。

その直後、僕のスマホが震えた。

画面には、知らない番号。

嫌な予感は、だいたい当たる。

「もしもし。先日の件とは別で、もう一つご相談がありまして」

僕は、天井を見上げた。

――誠実って、忙しい。

マグカップの文字が、少しだけ滲んで見えた。

さて。
この電話、どうやって切ろうか。


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