風の羅針盤と果てなき大地(続編)
第八章 沈黙の平原
約束の地を後にしてから、風は奇妙なほど静かだった。 羅針盤の針は再び動き始めていたが、その揺れは微弱で、まるで迷っているかのようだった。
リオの前に広がったのは、音のない平原だった。 草は揺れず、鳥も鳴かず、足音だけがやけに大きく響く。
「……生きているのか、この大地は」
問いかけに応えるものはない。 だが一歩踏み出すごとに、胸の奥に重い違和感が積もっていく。
その時、遠くに人影が見えた。
第九章 語り部の老人
人影の正体は、一人の老人だった。 灰色の外套に身を包み、杖を頼りに立っている。
「若者よ、その羅針盤を持つ者に、また会えるとはな」
老人は、初対面とは思えない言葉を口にした。
彼は語る。 かつて、この大地には“風に選ばれた者たち”が存在したこと。 そして彼らの多くが、旅の途中で姿を消したことを。
「風は導くが、守ってはくれぬ。選ぶのは、常に己自身じゃ」
その言葉は、祖父の声と重なった。
第十章 失われた都市
平原の果てで、リオは朽ちた都市を見つける。 崩れた塔、割れた石畳、風に削られた紋章。
かつてここには、人々の営みがあった。 だが今は、風だけが過去を語っている。
都市の中心で、羅針盤が激しく震えた。
「ここに……何かある」
地下へ続く階段を降りた先で、リオは壁画を見る。 そこには、羅針盤を手にした旅人たちと―― その先に描かれた、巨大な“空白”があった。
第十一章 選ばれなかった道
壁画の前で、リオは初めて足を止める。
これまで信じてきた風は、本当に正しかったのか。 導かれてきた道は、自分の意思だったのか。
羅針盤は答えない。
だが、その沈黙こそが、答えだった。
リオは羅針盤を閉じ、懐にしまう。 そして、自分の目で進む道を選んだ。
第十二章 再会
廃都を抜けた先、森の縁で、懐かしい声が響く。
「やっぱり、生きてた」
そこに立っていたのは、アイリスだった。 以前よりも強く、たくましい眼差しをしている。
彼女もまた、自分の旅を続けていたのだ。
二人は多くを語らない。 だが同じ風を感じていることだけは、分かった。
第十三章 風を越えて
二人は並んで歩き出す。 今度は、羅針盤に頼りきることはない。
迷った時は立ち止まり、恐れた時は語り合う。
風は、背中を押す存在から、共に歩く友へと変わっていた。
終章 物語を生きる者へ
世界の果ては、まだ遠い。 だが、それでいいのだとリオは思う。
冒険とは、辿り着くことではなく、選び続けること。
風の羅針盤は、再び静かに動き始める。
だが今、その針が指す先を決めるのは――
旅を続ける者自身だった。

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