短編小説:その夜、駅前のベンチで世界が少しだけ変わった【AI】

小説・創作

その夜、駅前のベンチで世界が少しだけ変わった

終電を逃したのは、これで三度目だった。
仕事が忙しいわけでもない。ただ、帰る理由が見つからなかっただけだ。

駅前のロータリーを抜け、古びた自動販売機の横にあるベンチへ腰を下ろす。
缶コーヒーの温もりが、冬の指先にじんわりと染みていった。

「またこの時間か」

誰に向けた言葉でもなく、ただ空気に溶かすようにつぶやいた瞬間、隣に人が座った。

年齢不詳。コートはくたびれているが、姿勢だけは妙に良い。
そして、こちらを見るでもなく、同じ自動販売機をじっと見つめていた。

「人生、やり直したいと思ったことは?」

唐突な問いだった。

「……急ですね」

そう返すと、男は小さく笑った。

「終電を逃す人間は、大抵そう思ってる」

図星だった。
やり直せるなら、あの日の選択を変えたい。あの言葉を飲み込みたい。
そんな後悔が、胸の奥に澱のように溜まっている。

「もし、やり直せるとしたらどうします?」

男はようやくこちらを見た。
驚くほど澄んだ目をしていた。

「一つだけ条件がある」

「条件?」

「やり直せるのは、たった五分だけだ」

五分間の奇跡

笑い話だと思った。
だが、男が差し出した小さな砂時計を見た瞬間、喉が鳴った。

「これは?」

「君が一番後悔している五分間に戻れる」

あり得ない。そう思いながらも、手は自然と砂時計を受け取っていた。

砂が落ち切る瞬間、視界が歪む。

――次の瞬間、そこは見慣れた会議室だった。

机の向こうには、かつての上司。
そして、何も言えずに黙り込む自分。

あの日、言うべきだった言葉が、喉までせり上がる。

「違います」

声が出た。

「それは私の責任ではありません」

上司の目が見開かれる。
周囲の空気が一変する。

砂時計の砂が、最後の一粒を落とした。

戻った現実

再び駅前のベンチ。
男はもういなかった。

手の中には、空になった砂時計だけ。

翌日、職場で奇妙なことが起きた。
上司の態度が変わっていたのだ。

「君の意見、ちゃんと聞くべきだったな」

世界が劇的に変わったわけではない。
だが、確実に何かが動き出していた。

やり直しは、いつも五分でいい

それ以来、終電を逃すことはなくなった。

やり直したい過去は、誰にでもある。
けれど本当に必要なのは、長い時間ではないのかもしれない。

ほんの五分。
勇気を出して、言葉を選び、前を向くための時間。

もし今夜、あなたが駅前のベンチで見知らぬ誰かに話しかけられたら。
その問いには、少しだけ真剣に答えてみてほしい。

「人生、やり直したいと思ったことはありますか?」

ー完ー


iroha-nihohe
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【朗読】短編小説:その夜、駅前のベンチで世界が少しだけ変わった


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