あの日に戻れたなら
三月十七日。
カレンダーに丸をつけたまま、十年が経った。
部屋の窓から差し込む夕暮れの光が、古びた写真立てを照らしている。 そこには、制服姿の二人が笑っていた。
「なあ、悠斗。将来さ、ちゃんと大人になれてるかな」
写真の中の彼女――春川美咲は、無邪気な笑顔でそう言っていた。
俺は三十歳になった。 けれど、あの日から一歩も進めていない。
十年前の今日。 彼女は、事故で死んだ。
あと五分、引き止めていれば。 あと一本、違う電車に乗っていれば。 そんな「もしも」を、何度も何度も繰り返してきた。
机に突っ伏したまま、俺は目を閉じる。
「……戻れたらな」
ありえない願いだと分かっている。 それでも、心の奥底から溢れ出た。
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目を開けた瞬間、違和感があった。
天井が違う。 部屋が違う。
勢いよく体を起こすと、見慣れたはずのポスターが壁に貼られていた。 高校時代、好きだったバンドのものだ。
鏡を見る。
そこに映っていたのは――十八歳の俺だった。
「……は?」
手が震える。 スマートフォンを掴む。
表示された日付は、三月十七日。 十年前の今日。
心臓が激しく打ち鳴らす。
夢じゃない。 匂いも、温度も、空気の重さも、全部が現実だ。
そして、はっきりと思い出す。
今日の夕方五時四十分。 駅前の交差点で、トラックが信号無視をする。
そこに、美咲がいる。
「……間に合う」
俺は制服に袖を通し、家を飛び出した。
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高校の門をくぐると、懐かしいざわめきが耳に届く。
グラウンドでは野球部が声を張り上げ、廊下では友人たちが笑っている。
そのすべてが、もう二度と戻らないはずの風景だった。
教室の扉を開ける。
そして、見つけた。
窓際の席。 陽の光を受けながら、ノートに何かを書いている彼女の姿。
胸が詰まる。
「……美咲」
名前を呼ぶだけで、涙が込み上げた。
彼女は顔を上げ、不思議そうに笑う。
「どうしたの? そんな顔して」
生きている。 息をしている。 そこにいる。
俺は衝動的に彼女の手を掴んだ。
「今日、どこにも行くな」
「え?」
「放課後、駅前に行くな。絶対にだ」
未来を話すわけにはいかない。 信じてもらえる保証もない。
だが、時間はない。
彼女は少し眉をひそめ、それから小さく笑った。
「もしかして、告白の練習?」
違う。 そうじゃない。
けれど、俺は言葉を失った。 十年前の俺は、彼女に想いを伝えられなかった。
その臆病さが、今も胸を締め付ける。
「……頼む」
必死な声だった。
彼女の表情が少しだけ変わる。
「分かった。でも、理由は教えて?」
俺は迷う。
もし運命が修正されるのだとしたら。 場所を変えても、形を変えても、事故は起きるのではないか。
そんな考えが脳裏をよぎる。
だが、止まっている暇はない。
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放課後。
俺は彼女を連れて学校に残った。 図書室、音楽室、校舎裏。 とにかく駅から遠ざける。
時計を見る。 五時三十分。
もうすぐだ。
五時三十九分。
鼓動が速くなる。
五時四十分。
――何も起きない。
安堵が胸に広がった瞬間。
遠くから、嫌なブレーキ音が響いた。
校門の前。
誰かの悲鳴。
俺は走り出した。
門の外。 信号無視のトラック。 倒れているのは――
「……違う」
そこにいたのは、美咲ではない。 見知らぬ男子生徒だった。
足が止まる。
事故は、起きた。
場所を変えて。 相手を変えて。
「そんな……」
背後で、彼女が息を呑む。
運命は、消えていない。
ただ、形を変えただけだ。
その瞬間、頭の奥で何かが軋んだ。
――戻れるのは、一度きり。
なぜか、そんな確信が胸に落ちる。
もし本当に一度きりなら。
守れるのは、誰だ?
世界か。 彼女か。 それとも――
美咲が震える声で言った。
「悠斗……これ、偶然じゃないよね?」
夕焼けが、赤く染まる。
俺は答えられなかった。
救えたはずの未来が、別の誰かを奪っていく。
この時間は、本当にやり直しなのか。 それとも、選択を迫るための罰なのか。
遠くで救急車のサイレンが鳴り始める。
三月十七日。
運命は、まだ終わっていない。
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