第9章:王都の転生者
王都までの道のりは、想像以上に長かった。 舗装された街道を進む馬車の中で、俺は何度も窓の外を見た。 広がる大地。畑。人々の笑顔。 どこか、自分の村に似ていた。
「王都は、かつて“創生の国”と呼ばれていました。」 アルノートが口を開いた。 「ですが今は、土地が枯れ、農民たちが苦しんでいます。 王はその再生を願い、“あなた”の力を求めておられるのです。」
俺は静かにうなずいた。 「もし力で救えるなら、協力します。」 そう言いながらも、心の奥に妙な不安が渦巻いていた。
王都の光と影
王都に入ると、村とは違う喧騒と人の波に圧倒された。 高い石壁、賑わう市場、そして空を駆ける魔導列車。 だが、その中に“空虚”を感じた。
「……笑っていない。」 街の人々の顔は疲れ切っていた。 食料はあるのに、心が満たされていない——どこか、前世の会社を思い出す。
王城へ案内されると、玉座の間に一人の女性王がいた。 穏やかながらも鋭い眼差しで、彼女は俺を見つめる。
「あなたが“創生の加護”を持つ者ですね。 ようこそ、再びの命を歩む者よ。」
その言葉に、胸がざわめいた。 「……“再びの命”って、どういう意味ですか?」
王はゆっくりと微笑んだ。 「もう一人、あなたと同じ“転生者”がここにいます。」
再会
扉が開く。 そして、姿を現した男を見た瞬間——心臓が止まるかと思った。
スーツのような服を身にまとい、鋭い目をした中年の男。 その声、その表情、その癖——間違いない。
「……部長、ですか?」
男はわずかに笑い、懐かしいような声で言った。 「久しぶりだな、佐藤。」
俺の前世の名前を、呼ぶ声。 “過労死した会社”で、最後に見た上司。 俺を酷使し、倒れるまで働かせた張本人だった。
もう一人の転生者
「俺はこの世界で、“神託の管理者”として転生した。」 部長——今は“セリオス卿”と呼ばれているらしい。 「この国の発展を導く使命を受けている。」
「導く、ですか? 前の世界では、俺たちを追い詰めていたのに。」 俺の声には、自然と怒りがにじんだ。
セリオス卿は静かに笑う。 「そうかもしれない。だが俺もまた、神に試されている。 “効率”と“幸福”は両立できるのか——その答えを探している。」
アルノートが口を挟む。 「あなた方、同じ世界の者なのですね。」 俺は頷いた。 「でも、俺たちは全く違う生き方を選んだ。」
試される心
その夜、王城の庭で一人風に吹かれていた。 エリアからもらった護符を握りながら、俺は呟いた。
「俺は、誰かを支配するために生き直したんじゃない。 誰かと“生きる”ために、この世界に来たんだ。」
月が雲の合間から顔を出し、光が手のひらを包む。 土の香り、村の仲間たちの笑顔——全部が背中を押してくれた。
——次に会うとき、もう逃げない。 俺は俺のやり方で、“創生”を証明してみせる。
次回予告:第10章「加護の対立と、命の種」
王都で始まる二つの加護の衝突。 「効率で導く男」と「共に生きる男」、その選択の先に芽吹くものとは——。

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