第6章:風の魔物と畑の守り手
穏やかな日々が続いていた。 朝は鶏の声で目を覚まし、畑を耕し、昼は木陰で昼食をとる。 リナの作るスープはいつも温かく、ガルドの笑い声が村に響いていた。
そんなある日、突如として風が唸りを上げた。
「なんだこの風……?」 村の畑が揺れ、作物の葉がちぎれ飛ぶ。 エリアが顔をしかめ、杖を構えた。
「風の魔物〈ウィンドレイス〉です。 この森に棲む精霊が、何かに怒っている……!」
初めての危機
突風が吹き荒れ、畑の柵が倒れた。 リナが必死に作物を覆うように布をかけ、ガルドは倒れかけた家を支えている。
俺は胸の中の“創生の光”を感じ取った。 ——あの泉で得た力。使えるかもしれない。
「みんな、下がってくれ!」 俺は両手を地面に当て、祈るように目を閉じた。
「この地を守る命たちよ——風を受け止め、根を張れ!」
大地が光を放ち、畑の周りに淡い緑の障壁が広がった。 風がぶつかるたび、障壁はしなやかに揺れ、作物を守っている。
「すごい……!」 リナが涙を浮かべる。 エリアが驚いたように呟いた。
「あなたの“創生の力”は、自然と共鳴している……! 破壊ではなく、守りの力……!」
風の精霊との対話
やがて風が静まり、霧のような人影が現れた。 それは透明な翼を持つ、小さな精霊だった。
「我が森を荒らす者……それは人間ではないのか?」
俺は膝をつき、ゆっくりと言葉を返した。 「違う。俺たちはこの森の恵みを借りて生きている。 奪うつもりはない。ただ、共に生きたいんだ。」
風の精霊はしばらく沈黙したあと、ふっと笑った。 「……ならばよい。あなたの心は穏やかだ。 この風を、守りの加護として授けよう。」
次の瞬間、風が優しく吹き抜けた。 畑の上を金色の粒が舞い、作物の葉が再び立ち上がる。
仲間との絆
風が止み、夕日が森を染めた。 ガルドが肩を叩きながら笑う。 「お前、やっぱりただの農民じゃねぇな。」 「だから言っただろ、畑しか興味ないって。」
リナはにこりと笑い、鍋を差し出した。 「畑が守れたお祝いに、特製スープを作ったの。 今日のスパイスは“風の実”。森がくれたお礼かもね。」
エリアは空を見上げながら静かに呟く。 「この村は、少しずつ世界の調和を取り戻している……。」
俺はふと思った。 ——過労死するまで働いた前世では、誰かの「ありがとう」を聞いたことがなかった。 でも今は違う。 この小さな村が、俺に“生きる意味”を教えてくれている。
次回予告:第7章「村の市場と旅立つ少年」
平穏を取り戻した村に、新しい出会いが訪れる。 市場の開設、そして少年の決意。 “創生の村”が、少しずつ世界に広がっていく——。


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