カーリング物語 第3話【AI】

小説・創作

〜ストーンは嘘をつかない〜

翌日。リンクに向かう足取りは、昨日より明らかに軽かった。 いや、軽いというより“早い”。気づけば小走りになっている。

「おはようございます!」

リンクに入ると、篠森とチームのメンバーがすでに練習を始めていた。 氷の上をストーンが静かに滑る音だけが、凛と響く。

「木島、来たか」

「はい! 今日からよろしくお願いします!」

俺の声が思ったより大きく響き、数人がクスッと笑った。

「元気だけは満点ね」
昨日手を振ってくれた女性──彩香(あやか)が笑う。

篠森が俺の前にストーンを置いた。

「今日は“読む”練習をやる」

「読む?」

「カーリングは、氷の癖を読むスポーツだ。強く投げても、弱く投げても、 氷が“こう滑れ”って言ってきたら、その通りになる」

「氷が……言ってくる?」

比喩なのか本気なのか分からない言葉だった。でも、篠森の表情は真剣だ。

「まずは、ストーンがどっちに曲がるか予想してみろ」

篠森が軽くストーンを投げた。スーッと静かに、細い弧を描きながら進む。

「さあどっち?」

「……右! 右に曲がります!」

ストーンは──左へ曲がった。

「逆かよ!!」

チームが笑い、彩香が肩をすくめた。

「初心者は100%外すから大丈夫」

「100%……」

その後も予想を出し続けたが、外す、外す、外す。 氷はまるで俺の逆を行くようにストーンを曲げていく。

──氷、怖ッ。

汗がにじむ頃、篠森が突然言った。

「木島。一昨日の一投、思い出してみろ」

「え?」

「あのとき、お前は氷を読んでたはずだ」

「いや、ただ無我夢中で……」

「無我夢中のときほど、本能が働くんだよ」

篠森がもう一度ストーンを置く。

「考えすぎるな。一昨日と同じように、ぼーっと軌道を見てみろ」

言われた通りに肩の力を抜き、深呼吸する。 氷の冷気が胸に入ってくる。 ストーンが滑る音だけに耳を澄ます。

──左に行く。

気づいたら口が勝手に動いていた。

「左です」

ストーンは、ゆっくりと左へ曲がった。

「……当たった……?」

彩香が驚いた声を出す。

「すごいじゃん悠斗くん! 一発で当てるなんて!」

篠森は、ただ小さく頷いた。

「ほらな。“読む目”はある」

その言葉が胸の奥でじわじわ温かく広がる。

続けて何本か予想した。 当たるのは半分くらい。それでも、最初のゼロよりずっといい。

「木島、今日の練習はここまでだ」

「え、もう?」

「集中力が切れたら逆効果。カーリングはメンタルも大事だからな」

その言葉に、昨日の失敗と今日の成功が混ざり、 何とも言えない心地よい疲労が押し寄せた。

帰り際、篠森がぼそりと言った。

「明日から、本格的な投球練習に入る」

「本格的……?」

「覚悟しとけ。痛いほど自分の下手さを知るから」

「こ、怖いこと言わないでください!」

それでも、足取りは軽いまま帰路についた。 氷が何を語るのか──その続きを早く知りたくなっていた。


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