カーリング物語 第4話【AI】

小説・創作

〜初めての“本気の一投”〜

翌日。リンクに入ると、いつもより空気が張り詰めていた。

ストーンが並び、ブラシが立てかけられ、チームのメンバーも黙々と準備している。 昨日までの“体験”の雰囲気ではない。

「木島、今日は本格的に投球練習をやるぞ」

篠森の声は、普段よりも低かった。

「お、お手柔らかにお願いします」

「無理だ。今日は容赦しない」

即答だった。


◆ 初めての“本気のフォーム”

まずは基本姿勢を作る。片膝をつき、ストーンを前に置き、 反対の足をスライドさせる──カーリング特有の投球フォーム。

教わった通りに構えてみるが、全身がプルプル震える。

「木島、重心が高い。腰をもっと落とせ」

「こ、これ以上落としたら倒れますって!」

「倒れて覚えるんだ」

本当に倒れた。しかも派手に。

ズシャァアッ!

尻を強打し、リンクに響く。 チームは笑いをこらえきれず、彩香は腹を抱えていた。

「痛っ……今日はこのパターン多くないですか……」

「多い。けど全員が通る道」

篠森は真顔のまま言い放つ。

「フォームは基礎だ。基礎ができてなきゃ何も始まらない。 だから今日、一日かけて叩き込む」

「……はい」

もう逃げないと決めたんだ。 痛くても、ダサくても、やるしかない。


◆ 投げても投げても、曲がる

準備が整い、最初の投球に入る。

ストーンを握り、リンクの中央を見すえ、 息を整え、そっと体を伸ばして──

「いきます!」

ゴッ……バシュッ……ぐにゃああぁ…!!

ひどい。笑えるぐらいひどい。 ストーンは狙いの遥か外側へ、ぐるんっと曲がって消えていった。

「才能ないっす俺!!」

「うるさい。黙ってもう一球」

地獄のような反復練習が続いた。 10球投げて、10球とも軌道がぶれる。

腰は痛い。太ももは攣りそう。 氷の冷気は体力を奪っていく。

「やべ……集中が……」

ヘロヘロになったところで、篠森がストップをかけた。

「木島、まだ終わりじゃない。最後に一投だけ、集中しろ」

「最後……一投……」

視界がぼやけている。でも、逃げたくはなかった。

深く息を吸う。 氷の匂いが肺にしみる。

ストーンを握る手が、少しだけ軽く感じた。

「……いける気がする」

さっきまでのように力まず、素直に投げた。

ストーンは滑り──ふわりと、 ほとんど曲がらず、一直線に進んだ。

コン……

中心からは外れたけど、 今日投げた中では、一番綺麗なラインだった。

「……やった……?」

彩香が拍手し、他のメンバーも頷く。

篠森は、ゆっくり歩いてきて俺の肩を叩いた。

「木島。今の一投ができるなら、まだ伸びる」

「マジっすか……?」

「マジだ。お前は“力を抜けるタイプだ”。 それがカーリングでは一番の武器になる」

褒められたのか、貶されたのか分からない。

でも、不思議と嬉しかった。

氷の世界は厳しい。 けど、その冷たさに触れられるのが、少しだけ誇らしくなっていた。

──明日こそ、もっと綺麗に投げてやる。


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