プロローグ
冬の冷たい雨が降る夜。
慶次の携帯が鳴った。
「交通課のあきらさんが事件に巻き込まれた」
そう聞いた瞬間、慶次の心臓は凍りついた。
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第一章 不可解なひき逃げ
現場は大通りの交差点。
被害者は幸い軽傷だったが、あきらは車のナンバーを追おうとして転倒し、腕を痛めてしまった。
「平気よ、ちょっと擦りむいただけ」
あきらは強がって笑う。
だが慶次には、その笑顔が無理をしているように見えた。
「俺が代わりに必ず捕まえます」
慶次は強く誓った。
背後で伊山が拳を握りしめていた。
(やっぱり……あきらは、あの新人を見ている)
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第二章 恋と仕事の板挟み
署に戻ると、恵子が心配そうに駆け寄ってきた。
「けーじ先輩、大丈夫ですか? 顔色悪いですよ」
「……大丈夫。俺は刑事だから」
「刑事だからって……心配する気持ちくらい、私にだってあるんです」
恵子の言葉に胸が揺れる。
だが今は、事件とあきらのことしか頭にない。
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第三章 交差する手掛かり
調べを進めると、ひき逃げ車両は盗難車だった。
だが不思議なことに、事件現場付近であきらを追うように走る姿が目撃されていた。
「偶然じゃない……誰かが、あきらさんを狙ってる?」
慶次の直感が告げていた。
そのとき、伊山が強い声で言った。
「俺も協力する。あきらを守る」
慶次と伊山。
ライバル同士が、初めて同じ目的で手を組んだ瞬間だった。
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第四章 罠
数日後。
ひき逃げ車両が再び現れたとの通報が入る。
慶次と伊山は夜の交差点へ急行。
ヘッドライトが雨を切り裂き、車が猛スピードで突っ込んでくる。
「伊山さん、左に回ってください!」
「お前こそ無茶するな!」
二人は息を合わせ、必死に車を追い詰めた。
やがて車はガードレールに突っ込み、運転手は取り押さえられた。
容疑者は、以前あきらが摘発した違法ドラッグ組織の一員だった。
復讐のため、あきらを狙っていたのだ。
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第五章 心の距離
事件解決後。
署の医務室で休むあきらのもとに、慶次が駆けつけた。
「もう心配かけないでくださいよ。俺、本気で……」
慶次は言いかけて口をつぐむ。
その視線に、あきらの頬がほんのり赤くなる。
「……あなた、ほんと不器用ね」
そう言いながらも、あきらは微笑んだ。
廊下では恵子が二人を見つめ、静かに去っていった。
伊山もまた、二人の距離を痛感しながら、黙って背を向けた。
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エピローグ
真夜中の交差点。
慶次は立ち止まり、雨上がりの空を見上げた。
刑事として、守りたい人がいる。
一人の男として、伝えたい想いがある。
その気持ちが、これからの自分を突き動かす――。
街の灯りが滲む中、慶次の決意は確かに輝いていた。


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