ファンタジー小説:蒼き森のラストスペル(第2話)
「黒翼の預言」
森へ続く道は、夕闇に沈みつつあった。
人間の街アストラードを後にしたリシェルは、一度も振り返らなかった。未来に映った炎は、瞼を閉じても消えない。燃え落ちる王都、黒い翼、絶望の叫び。あれが一週間後の光景だという確信だけが、胸の奥で冷たく固まっている。
だが、未来視は万能ではない。断片しか見えず、理由も経緯も映らない。ただ「結果」だけが、刃のように突きつけられる。
「原因を知らなければ、防ぎようがない……」
森へ戻る前に、確かめなければならないことがあった。
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リシェルは再びアストラードへと足を向けた。ただし正門ではない。城壁の裏手、荷馬車の出入りに使われる古い通用口だ。夜陰に紛れれば、エルフの姿も目立たない。
彼女の目的は王立書庫だった。
人間は争いを好む。ゆえに記録もまた、戦と封印の歴史に満ちている。森の長老たちが語らなかった何かが、そこにあるはずだった。
石造りの書庫は、城の一角に併設されている。窓は高く、灯りは少ない。見張りは二人。
――四秒後、左の兵が咳をする。
未来が流れる。
その隙を逃さず、リシェルは影から影へと移動した。音もなく扉を押し、内部へ滑り込む。
古紙と蝋の匂いが満ちていた。
棚に並ぶ膨大な書物。戦史、王家の記録、禁呪の断章。
彼女は直感に従い、地下閲覧室へ降りる。
そこにあったのは、鎖で封じられた一冊の黒い書。
表紙に刻まれた紋章を見た瞬間、胸がざわめいた。
――黒い翼。
震える手で頁を開く。
そこに記されていた名。
「魔王ヴァルグレイム……」
千年前、世界を焼いた魔族の王。エルフと人間が共闘し、ルミナリアの地下神殿に封印した存在。
封印の核となったのは、森の精霊樹。
リシェルの血の気が引く。
未来で見た崩壊は、偶然ではない。
「封印が……揺らいでいる?」
頁を繰った瞬間、視界が白く染まった。
未来視が発動する。
地下神殿。
ひび割れる巨大な魔法陣。
長老たちが膝をつき、空間が裂ける。
そして――闇より現れる、漆黒の翼。
「久しいな、森の子らよ」
低く響く声。
リシェルは書を閉じた。
これ以上見れば、意識が持たない。
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森へ向かう道を、彼女は駆けた。
夜明け前の空は鈍色に沈み、風は不穏にざわめいている。ルミナリアへ近づくほど、胸騒ぎは強くなった。
やがて森の入口が見える。
だが、様子がおかしい。
木々の葉が不自然に揺れ、魔力の流れが乱れている。
「遅かった……?」
足を踏み入れた瞬間、強烈な圧迫感が襲う。
空気が重い。
精霊たちの囁きが、恐怖に染まっている。
王都へ辿り着くと、広場には長老たちが集っていた。
リシェルの姿に、ざわめきが起こる。
「追放者が、なぜ戻った」
冷たい声。
だが彼女は頭を下げなかった。
「封印が破られます。魔王ヴァルグレイムが復活する」
沈黙。
長老の一人が険しく眉を寄せる。
「妄言を」
そのときだった。
地鳴り。
王都の中央にそびえる精霊樹が、低く軋む。
地面に巨大な亀裂が走った。
地下神殿へ続く階段が、露わになる。
長老たちの顔色が変わる。
「まさか……」
リシェルは駆け出した。
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地下神殿。
巨大な円形の空間。その中央に刻まれた封印の魔法陣は、無数の亀裂に覆われていた。
黒い霧が滲み出している。
長老たちが詠唱を始めるが、光は弱々しい。
未来が流れ込む。
――五秒後、封印崩壊。
――八秒後、全員倒れる。
その先に、自分が立つ姿。
魔法陣の中心で、光に包まれる未来。
だが、その結末は見えない。
轟音。
魔法陣が砕け散る。
闇が噴き上がる。
そして現れたのは、巨大な黒翼の影。
紅い瞳が、ゆっくりと開く。
「千年ぶりの空気は、実に甘美だ」
魔王ヴァルグレイム。
圧倒的な魔力が神殿を満たす。
長老の一人が吹き飛ばされ、壁に叩きつけられる。
悲鳴。
リシェルの視界に、無数の未来が重なる。
死。
炎。
崩壊。
だが、その奥に。
まだ選ばれていない未来が、かすかに光っていた。
ヴァルグレイムの視線が、彼女に向く。
「ほう……面白い力を持つ子がいるな」
黒い翼が大きく広がる。
神殿の天井が軋む。
絶望が、すぐそこまで迫っていた。
それでもリシェルは、逃げなかった。
未来を視る者として。
そして――未来を選ぶ者として。

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