契約の牙と深淵の竜(第2部)
蒼穹を裂く翼
レオとクロの旅は、王都アルセリアへと続く街道を進んでいた。
村を出てから二週間。野営にも慣れ、クロとの呼吸も合ってきた。
だが、世界は優しくはない。
街道沿いの村々では、同じ噂が囁かれていた。
――空が裂ける。
――夜に蒼い光が走る。
――竜の影を見た者がいる。
蒼穹の魔物
その夜、事件は起きた。
突如、空が轟音と共に裂けた。
蒼い閃光が大地を薙ぎ払う。
森が燃え、悲鳴が上がる。
「クロ!」
レオは駆け出した。
炎の中に、巨大な翼が見えた。
白銀の体躯、蒼い稲妻を纏う竜種――
だが、その動きはどこか不安定だった。
暴れているのではない。怯えている。
レオは直感した。
「あいつも、操られてる……!」
竜の首元に、黒い杭が突き刺さっている。
禍々しい紋章が脈動していた。
もう一つの契約
クロが黒炎を纏い跳躍する。
だが雷撃に弾かれ、地に叩きつけられた。
「くっ……!」
レオは駆け、杭へと手を伸ばす。
雷が腕を焼く。
それでも掴んだ。
胸の紋章が輝く。
「大丈夫だ……俺は敵じゃない!」
その瞬間、視界に流れ込んだのは記憶だった。
空を自由に翔けていた日々。
仲間を守れなかった絶望。
そして、闇に囚われた瞬間。
レオは叫ぶ。
「自由になれ!」
杭が砕けた。
雷光が弾ける。
白銀の竜は空へ舞い上がり、咆哮した。
その瞳は、理性を取り戻していた。
やがてゆっくりと降り立つ。
レオの前で、翼を折った。
契約の紋章が再び輝く。
二つ目の契約が結ばれた。
「お前の名は……ライゼ」
蒼雷竜ライゼは、静かに頷いた。
契約士ギルド
翌日、王都近くで待ち受けていたのは契約士ギルドの一団だった。
「黒炎狼に蒼雷竜だと?」
鎧の男が剣を抜く。
「危険指定級の魔物だ。管理下に置く」
「断る」
レオは一歩も引かなかった。
「こいつらは道具じゃない。仲間だ」
空気が張り詰める。
戦闘は一瞬だった。
クロの炎が剣を弾き、ライゼの雷が地を裂く。
圧倒的だった。
だが、最後に現れた男の一言が空気を変えた。
「深淵竜が目覚めた」
その名に、空気が凍る。
深淵の兆し
深淵竜アビスロード。
千年前、世界を滅ぼしかけた存在。
完全復活まで残り三ヶ月――。
杭はその前触れだったという。
各地の強力な魔物を闇に染め、力を集めている。
レオは拳を握る。
「俺たちが止める」
無謀だと笑われた。
だがクロが吠え、ライゼが翼を広げる。
その背に乗った瞬間、レオは確信した。
自分は“選ばれなかった”のではない。
自分で選び、選ばれたのだ。
契約は血ではない。
心だ。
黒炎の覚醒
夜、クロの体に異変が起きた。
黒炎が蒼へと変わる。
「……深淵の力に呼応している」
クロはただのヘルウルフではなかった。
かつて深淵竜と戦った“対極の牙”。
その血を引く存在。
最終決戦は避けられない。
レオは空を見上げる。
黒い雲の奥で、巨大な影が蠢いた。
世界の終わりが、近づいている。
だが少年は恐れなかった。
隣には牙があり、翼がある。
そして、絆がある。
「行こう。終わらせるために」
蒼雷が夜空を裂く。
三つの影は、深淵へ向かって飛び立った。
それが、最終決戦への序章だった。

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