契約の牙と深淵の竜(第一部)
牙を持つ少年
世界には「契約士」と呼ばれる者たちがいた。
魔物と心を通わせ、共に戦い、共に生きる者たち。だがそれは選ばれた血筋だけに許された力だとされていた。
山間の小さな村に暮らす少年・レオは、その“選ばれなかった側”の人間だった。
「お前に契約の才はない」
十二歳の儀式の日、村の長老は静かに告げた。
魔石は光らなかった。
誰もが視線を逸らした。
それでもレオは、森へ向かった。
孤独な魔物
森の奥で出会ったのは、小さな黒い獣だった。
狼に似ているが、額には紅い紋章が浮かんでいる。
それは傷ついていた。
罠にかかり、血を流していた。
「動くな。助ける」
レオは震える手で罠を外した。
魔物は牙を剥いたが、噛みつかなかった。
代わりに、じっと見つめてきた。
その瞳に映っていたのは、敵意ではなかった。
――孤独だった。
レオは気づいた。
「……お前も、ひとりか」
次の瞬間、胸が熱を帯びた。
手の甲に紋章が浮かび上がる。
魔石がないはずのレオの体が、淡く光った。
黒い獣の額の紋章と共鳴する。
それは“契約”だった。
誰にも教わらず、誰にも認められず――ただ心が触れ合った瞬間に生まれた契約。
「お前の名前は――クロだ」
黒い獣は、小さく吠えた。
最初の戦い
村へ戻る途中、森が揺れた。
現れたのは巨大な牙猪(ファングボア)。
目は血走り、理性はない。
「クロ、逃げるぞ!」
だが猪は突進してきた。
レオは転び、牙が迫る。
その瞬間、クロが跳んだ。
黒い炎がその体を包む。
炎は牙を弾き、猪を吹き飛ばした。
クロはただの狼ではなかった。
“黒炎狼(ヘルウルフ)”――災厄級の血を引く魔物。
だがレオは知らない。
ただ叫ぶ。
「一緒に戦うぞ!」
クロは頷くように地を蹴った。
二人の初陣だった。
旅立ち
猪を倒した後、村は騒然とした。
「魔物を連れているだと?」
「危険だ!」
レオは理解した。
ここには居場所がない。
クロもまた、森に戻れない。
ならば。
「行こう。俺たちの居場所を探しに」
クロは隣に立つ。
少年は村を背に、未知の大地へ踏み出した。
その先に待つのが、魔王級と呼ばれる存在――
“深淵竜アビスロード”との戦いだとは、まだ知らずに。
だがこの小さな契約が、世界を変える第一歩になる。

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