カーリング物語 第8話【AI】

小説・創作

初めて“自分のショット”で試合を動かした日

体育館に入った瞬間、空気がピリッとしていた。
今日は練習試合の日――とはいえ、正式な大会でもないし、順位も関係ない。
それでも、チーム全員がどこか落ち着かない顔をしている。
私自身も胸がそわそわしていた。

前回、佐伯さんのフォーム指導で得た感覚が、まだ身体に馴染みきっていない。
それでも「何か掴めそうだ」という期待だけは確かにあった。

■ いきなり訪れたチャンス

試合が始まり、私はセカンドとして出場することに。
序盤は相手チームのほうが落ち着いていて、ハウス内の主導権を握られていた。

第3エンド。
こちらはストーンを2つ取られそうな嫌な展開になっていた。

「ここでしっかりテイクできれば流れが変わる。
やってみる?」

スキップの長谷川さんが、まっすぐ私を見た。

これまで私は、重要な場面では無難なショットを任されることが多かった。
けれど、今日の長谷川さんは違った。

「いけます。投げたいです」

自分でも驚くほど迷いなく言葉が出た。

その瞬間、チーム全員が小さく頷いた。
まるで「やっとこの時が来たね」と言われているようで、胸が熱くなった。

■ 冷静になれ、自分

ストーンの前に立つと、急に膝が震えた。
だが、佐伯さんの言葉が頭の中で響く。

「押すな。ストーンの重さを信じて、添えるだけ」
「胸をほんの少し前へ」

深呼吸ひとつ。
氷の上にスライドを出す瞬間、余計な力がすっ…と抜けていく感覚があった。

リリース。
ストーンが、自分でも驚くほど静かに伸びていく。

「もうちょい右…! スイープ入るよ!」

チームの二人が一斉にスイープし、ストーンはわずかに角度を変えた。
そして相手のストーンにクリーンヒット――。

ハウス外へすべて押し出した。

一瞬、体育館が静まり返る。

「ナイスショット!!」

次の瞬間、味方の声が爆発した。
胸の奥が震えて、思わず息を飲んだ。

自分のショットで流れが変わる――
そんな経験は初めてだった。

■ 試合後の一言

結局、そのショットをきっかけにチームは勢いを取り戻し、練習試合とはいえ接戦を制することができた。

片付けが終わる頃、佐伯さんが近づいてきた。

「今日のテイク、良かったよ。
あれは“偶然の成功”じゃなくて、“作った成功”だ。
フォームを変えて、迷いがなくなってきた証拠」

「ありがとうございます…!」

「でもね――」

佐伯さんはいつもの穏やかな表情に戻り、軽く笑った。

「今日の成功は“次の課題の入り口”でもある。
次は、あのショットを“当たり前”にできるようにしよう」

その瞬間、私は気づいた。
ショットが決まったことが嬉しいのではなく、
“もっと上手くなれる”と認めてもらえたことが嬉しいのだと。

■ そして新しいノート

家に戻った私は、カーリングノートを開き、今日気づいたことを片っ端から書き込んだ。

・重心の位置、少し前
・リリースの力を抜く
・怖がらず投げ切る
・スイープとの連携を信じる

書きながら、ふと笑ってしまった。

つい数週間前まで、私はカーリングのルールすら怪しかった。
けれど今日、“チームの一員として試合を動かした”瞬間が確かにあった。

まだまだ下手だし、失敗も多い。
でも、心のどこかで確信が芽生えていた。

――私は、もっと上手くなれる。

そう思えただけで、今日という日は特別だった。


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